市民社会 / 公民社会
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概要
中国憲法第35条は、中国国民に対し、集会と結社の自由の権利を認めている。この文言は世界人権宣言第20条に酷似する。同条は、非政府組織(NGO)によって構成される市民社会の発展の前提条件を定めるものである。EUは非政府組織を「国家とのつながりがなく、国家によって管理もされていない個人または集団が行うあらゆる形態の社会的行動」と定義している[1]。こうした独立性は中国には見られない。なぜなら、中国憲法第1条に成文化されているすべての要素を中国共産党が指導するという支配的な政治原則に反するためである。この原則は、発言と主体の種類の両方に反映されている。中国の指導者が国内の政治的コミュニケーションにおいて「市民社会」という言葉を支持したことはない。1980年代以降の民間のNGOや財団の急増にもかかわらず、党や政府が組織する団体(GONGO)は依然として大きな役割を果たしている。政策の焦点は、この成長中のセクターを規制し、すべての社会組織(社会组织)が監督され、党や国の機関と結びつくようにすることにある。これらの組織は、独立した主体となるのではなく、政府と協力関係を築き、国の政策課題に貢献することが意図されている。
分析
習近平は、社会を統治するための新たな革新的アプローチの一環として、社会組織が社会問題のあらゆる側面に参加すべきであると強調した[2]。しかし、習やその他の高官が「市民社会」(公民社会/民间社会)について語っている場面を探すのは困難だろう。というのも、この概念が公的な言説において支持されたことはないからだ。政府組織が国際的な文書において「市民社会」という言葉を使用する場合はあるが、これについての政党国家としての中国の見解は明らかだ。そのビジョンとは国家主導の市民社会である[3]。
1980年代に改革政策や中国の開放が始まる前は、中華全国総工会などの党主導の主要な人民組織や、党主導の草の根組織がこの分野を支配していた。これらは現在でも顕著な役割を果たしており、さまざまな事項や全国的な調整を実質的に独占している。
独立した労働組合や宗教団体の設立は、依然として禁止されている[4]。
しかし、1990年代初頭の現代化が進むにつれ、社会問題が多数発生し、国が撤退した分野におけるサービスや自主組織への需要が高まった。中国では市民社会が成長してきたが、その主体の構成は変化している。NGOや民間財団は現在、国内外でますます重要な役割を果たしている。
2000年代後半と2010年代初頭には、支援活動の迅速な専門化、人権弁護士の急増、国際的な主体との協力が見られた。インターネットとソーシャルメディアは、地域をまたぐテーマごとのネットワーキングのためのプラットフォームを提供した。これにより、市民社会が体制の安定に対する脅威として浮上する可能性があるという懸念が生じた。9号文件は以下のように述べている。「過去数年で、市民社会という概念が西洋の反中国勢力によって導入されている[…]」[5]
その後、2010年代半ばから後半にかけては、特に権利擁護団体に対して、何度も取り締まりが行われた。法律・制度改革は、自主組織を抑えることや、主に中国共産党の支配が及ばない範囲で発展してきたセクターを党の指導下に戻すことに重点を置いていた。現在の主な目標は、
中国共産党の課題を達成するために社会的なリソースや主体を動員、指導し、政府が社会サービスを提供することである(政府购买社会服务)。
これは強い束縛でもあり、政府と無関係なNGOも政府組織による監督を義務付けられる。
コンプライアンスは評価制度を通じて監視される。2015年以降、社会組織を政党国家に結び付け、これらの組織に求められることを伝達するため、社会組織の内部に党支部を設立し、党員を社会組織に採用するキャンペーンが継続的に行われている[6]。これは国際的な主体の厳格な規制を伴うものである。
2017年1月に施行された海外NGO管理法は、海外NGOを国家監督部門と公安部門による二重の監視制度の下に置いた。[7]香港国家安全維持法は、2020年7月1日の施行以来、海外の主体との「共謀」という非常に不明瞭な犯罪を導入することにより、国際的な交流と協力をさらに抑制している。国連では、中国は、社会的利益を代表する存在は国家のみであるという見解に沿って、NGOの役割の制限に取り組んでいる。[8]
[1] EUR-Lex, ’Civil Society Organisation’, EUR-Lex,
[2] L., Qing, ’习近平总书记创新社会治理的新理念新思想’ [「習近平総書記による新たな形態の社会統治のための新しい理念と思想」], people.cn, 17 August 2017, http://theory.people.com.cn/n1/2017/0817/c83859-29476974.html
[3] Office of the Central Committee of the Chinese Communist Party, ‘关于改革社会组织管理制度促进社会组织健康有序发展的意见’ [「社会組織の健全で秩序ある発展を促進するための社会組織の統治制度改革に関する意見」], Central People’s Government of the People’s Republic of China, 21 August 2016, http://www.gov.cn/gongbao/content/2016/content_5106178.htm
[4] China Labour Bulletin, ‘Workers’ rights and labour relations in China’, China Labour Bulletin, 13 August 2020, https://clb.org.hk/content/workers%E2%80%99-rights-and-labour-relations-china
[5]ChinaFile, ‘Document 9: A ChinaFile Translation, How Much Is a Hardline Party Directive Shaping China’s Current Political Climate?’, ChinaFile, 8 November 2013, https://www.chinafile.com/document-9-chinafile-translation
[6] Office of the Central Committee of the Chinese Communist Party, ‘关于加强社会组织党的建设工作的意见’
[「社会組織における党支部の設立強化に関する意見」], people.cn, 29 September 2015, http://dangjian.people.com.cn/n/2015/0929/c117092-27645046.html
[7] ChinaFile, ‘Fact Sheet on China’s Foreign NGO Law’, ChinaFile, 1 November 2017, https://www.chinafile.com/ngo/latest/fact-sheet-chinas-foreign-ngo-law
[8] Human Rights Watch, ‘The Costs of International Advocacy, China’s Interference in United Nations Human Rights Mechanisms’, Human Rights Watch, 5 September 2017, https://www.hrw.org/report/2017/09/05/costs-international-advocacy/chinas-interference-united-nations-human-rights#