法の支配 / 法治

概要

法の支配の原則は、法が国家権力に対して重要な制限を行うことを意味する。国連は法の支配を「公共および民間を問わず、国家そのものを含むすべての人、機関、団体が、公に公布され、平等に施行され、独立的に裁定され、国際的な人権の規範および基準に適合する法に責任を負う統治の原則」と定義している^[1]。法の支配という制度においては、すべての人が法の対象であり、いかなる人も法に優越することはない。リベラルな民主主義では、法の支配は市民権と政治的権利に関連しており、権力の分立を含意する。中国共産党による法の支配の概念である「法治」や「依治法国」は、文字どおりには「法に基づく統治」や法に従って国を治めることを意味するが、リベラルな民主主義における法の支配の概念との共通点はほとんどない。中国の「中国的特色を持つ法制度の社会主義的規則」では、法制度は党の指導と監督の下にある。中国共産党は、究極的には法を、安定と秩序を確保する道具や、党の支配を正当化し維持する手段と認識している。「法治」は、法の支配の国際的原則とは大きく異なっており、恐らく「法の支配」と翻訳すべきではない。

分析

法の支配は、1980年代初頭以降の中国の改革計画や公的な言説に繰り返し登場するテーマである。中国では、毛沢東の政治キャンペーンが文化大革命に至った後の現代化改革において、
法制度の再構築と司法の専門化が重要な要素となった。毛の死後、権力の過剰集中を防止し、共産党から政府機関に権限を委任するための措置が講じられた。階級闘争、矛盾、革命などのキーワードは、安定、調和、法の支配に置き換えられた。法律機関が設立され、まったく新しい分野の法律が起草され、法律学校が設置された。中国が海外投資や国際協力を受け入れるのに従って、西洋では、中国も国際規範を受け入れるように順応し、毛沢東の下での「人の支配」からリベラルな民主主義における意味での法の支配へ進化しつつあると考えられるようになった。

習近平は、2012年に権力の座に就いて以来、法の支配の重要性を強調し、広範囲に及ぶ腐敗防止キャンペーンによって「虎とハエ」の両方を捕えることを誓約してきた。2014年の中国共産党第18期中央委員会の第4回総会は、全体的なテーマとして法の支配を掲げた。総会では、法の支配が「2つの100年の目標を達成し、中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現するための強力な保証」をもたらすと宣言された^[2]。

しかし、法制度の改革と開放の最初の30年間に中国の司法制度が脱政治化されたとすれば、過去10年間は再政治化や共産党化が見られた。党機関は政府機関を吸収しており、党の指導を成文化するために法が使用されている。2018年には、憲法改正により、1982年に導入された国家主席の任期制限が解除された。また、直近の香港の事例を含め、曖昧だが広範囲にわたる一連の安全保障関連の法規制が制定されている。中国政府は2020年6月、香港の現地立法機関や英中共同声明の「一国二制度」の原則を無視して「香港特別行政区国家安全維持法」を可決した。これは中国において、法が道具として利用され、国際法が選択的に遵守されていることの実例を示すものである。

2020年11月、中国共産党は会議を開催し、「習近平の法治思想とその地位を、中国における法に基づく統治の指導的思考」として確立すると宣言した^[3]。2035年までに中国を法の支配に基づく社会主義国へ強化するために、中国共産党の指導を支持することの重要性が強調されるなか、習近平の法治思想（习近平法治思想）を「今後長年にわたり国を支える思想的複合体の重要な柱の1つ」として真剣に学習し理解することが国全体に指示されている^[4]。